Saturday, November 22, 2008

口パク  Lip-sync  假唱

№022
2008年11月


口パク

Lip-sync


假唱
(Jiǎ Chàng チア  チャン)


 猛々しい太鼓の演奏で始まった北京五輪の開幕式は、雄大豪壮なプロローグであった。そして、9歳の少女が赤のドレスで登場し、中国の五星紅旗を前に独りで「歌唱祖国」を歌い上げた。硬軟両様のパフォーマンスは、あの世界的な映画監督、張芸謀(チャン・イーモウ)らしい設計で、中国の総力を結集した世紀のセレモニーであったに違いない。しかし、9歳の少女の歌唱は実は別人の歌であったことが明らかになり、その後物議を醸している。
 このほど、中国の文化部(省に相当)は歌手が公演で偽りの唱歌をしたり、録音済みの曲を生演奏のように見せたりすることを禁止する規定を公表した。規定文に盛り込まれた中国語は「假唱(チア チャン)」となっており、「假」は日本語の「仮」の字に相当する。偽りの唱ということで、「偽唱(ウェイ チャン)」という言い方もある。英語の「・・・-sync」はsynchronization(同期化)の略で、「Lip-sync」が一般的にいわれる口パクの意になる。いずれも、ネット上では北京五輪の開幕式についてこれらのキーワードが飛び交っており、口パクがいかに波紋をよんでいるかであろう。
 中国では歌唱による売上が23億元(約333億円)になり、全体の文化事業の3割を占めている(2007年)。「口パク」禁止令はいまに始まったことではない。以前からその規定があったのだが、五輪の開幕式の問題を受けて改めてお触れを出し、偽装した歌手、芸術団に対しては名前を公表し、2年以内にまた行った場合は免許取消になるとした。中国はこうした文化事業の団体、歌の個人について免許制になっているのである。
 人々に感動をもたらす歌曲の世界でも、国家の統制にあるのが社会主義中国である。しかし、ブランド商品の偽物が氾濫するお国柄のこと、唱歌でも偽物があるとは、この国で信じることの難しさを改めて思い知らされた。

(マーティー)

政府系ファンド Sovereign Wealth Fund 主权财富基金

№021
2008年8月



Sovereign Wealth Fund

主权财富基金
(Zhú Quán Cái Fù Jī Jīn チュー チョアン ツァイ フー チー チン)


 日本版政府系ファンド(SWF)の創設を目指す報告案が自民党国家戦略本部「SWF検討プロジェクトチーム」によって報告案が出された。それによると約150兆円にのぼる公的年金の積立金を一部切り離し、10兆円規模の運用基金をつくろうという主旨である。運用期間は5年。5年後に当初目標の利回りが達成できない場合は解散させる。逆に、運用が順調に進めば、資産規模を拡大してこの制度を継続するという仕組みである。しかし、日本は国会運営が壁となってSWFは、当面できないだろう。
 昨今の政府系ファンドといえば、石油などの資源による収入や外貨準備といった国家の富を運用する基金である。略称のSWFは英文表記のSovereign Wealth Fundの頭文字をとったもので、中国では英語表記をそのまま訳した「主権財富基金(チューチョアンツァイフーチーチン)」が使われている。日本語のそれはかなりの意訳であり、そのイメージはどの国にもある公的なファンドであり、国境を越える巨額な投資資金とはかけ離れているような気がする。
 世界最大のSWFはアラブ首長国連邦のアブダビ投資庁(ADIA)で、推定8,750億ドルある。隣国の中国では外貨準備を資金源とした中国投資有限責任公司(CIC)が2,000億ドルの資金の運用を開始しており、日本を初めとする海外への投資を積極的に振り向けていくものと思われる。サブプライムローンで低迷する国際資本市場にとってもSWFに対する期待は高まっており、資金の出し手としての影響力が高まっている。その一方で、エネルギー産業のような国家の安全保障に関わるセクターへの投資は、資金の出し手がロシア・中国となると、俄然警戒感を強めてくる。
 資本市場からみて救世主のように期待されているが、主権国家にとっては諸刃の剣にもなりかねない。


(バル2世)

Sunday, August 19, 2007

迷惑メール Spam mail 垃圾电邮

№020
2007年8月


Spam mail

垃圾电邮
(Lā jī diàn yóu  ラー チー ティエン ヨウ)

 メールアドレスを持つ読者なら、誰しもこの種の電子メールを受け取ったことがあるだろう。携帯電話やパソコンへ一方的に送りつける迷惑メールに対して、総務省はようやくこれを規制する動きに出てきた。先月「迷惑メールへの対応の在り方に関する研究会」が開かれ、送信者への罰則、偽のサイトに誘導して個人情報を引き出す「フィッシングメール」への対策が提起されている。そして、来年の通常国会で「特定電子メールの送信の適正化に関する法律」として改正案を提出する方針でいる。
 米国では、すでに「迷惑メール防止法」が成立しており(2004年1月)、「Spam mail」とよばれている。差出不明のもの、紛らわしいタイトル、成りすましといったEメールの送信は違法であり、違反者には200万~600万ドル(約2.2億~6.6億円)の罰金が課せられる。最悪の場合には最長5年の懲役もあり、IT社会らしい厳しい掟である。
 Spamは情報化社会にあっての新語で、大量広告という意味合いを持つ。日本語のように迷惑という意味はなく、Spamは受信者の一部には受け入れられることもあるとした考え方が含まれているかもしれない。また、米国では「Junk mail」という言い方がある。こちらの方が日本人にはわかりやすく、受け入れ難い「ゴミ」のイメージが湧いてくるだろう。同じ表現の手法で中国は、「垃圾电邮(ラー チー ティエン ヨウ)」という言い方が定着している。垃圾(ラー チー)はゴミを意味し、电邮(ティエン ヨウ)は郵便物を指す。
 ところで、迷惑メールの主な発信地は中国であることを、読者はご存知だろうか。日本からの委託を受けて、メールの送信代行をビジネスにする中国業者がおり、メールアドレス情報を大量に保有しているとされる。日本で規制を強化し法制化したとしても、治外法権の中国では取り締まれない。まさに「仏作って魂を入れず」であろう。
(バル2世)

Sunday, June 03, 2007

三角合併 Triangle merger 三角并购

№019
2007年5月



三角合併

Triangle merger


三角并购

(Sān jiǎo bìng gòu  サン チアオ ピン コウ)


 「中国の携帯電話会社、チャイナモバイルの時価総額がNTTドコモ、KDDIそしてソフトバンクの3社合計のそれを上回っている」といえば、意外に思うかもしれない。チャイナモバイルの時価総額は香港だけで約22兆円。これに対する日本勢の3社合計は約17兆円であった(2007/5/8)。チャイナモバイルは上海、ニューヨークにも上場しているのでグローバルでみた 時価総額はもっと大きくなるだろう。それほどに日本企業の時価総額は小さいのである。
 合併相手の日本企業の株主に、対価として外国企業の親会社の株を割り当てる「三角合併」が5月に解禁された。国内企業同士はすでに1999年の商法改正で「株式交換」による買収が可能になり、海外企業による買収だけが残っていた。本来であれば昨年5月に施行された会社法の施行と同時に三角合併も認められるはずだったが、財界の強い要請で1年先送りされていたのである。
 この三角合併が日本で解禁されたという報道が、海外でも伝わっている。英語は「Triangle merger」、中国語は「三角并購(サン チアオ ピンコウ)」といい、日本での通り名をそのまま意訳している表現が多い。日本の上場企業の時価総額は世界的にみても見劣りしているからグローバル企業にとっては株式による買収が可能になったことは非常に魅力的だとされる。自然、日本の財界経営者の外資に対する警戒が高まることも無理からぬ話であろう。
 買収しようとする会社は欧米企業だけではなく、中国の巨大資本も動き出す可能性がある。欧米は主として日本市場への参入を目的するが、中国は日本の最先端の技術を狙っているとされる。三角合併は日本の経営の機動性を高め、日本の株式市場の活気を取り戻すことが期待されると同時に、技術の流出をもともなう諸刃の剣となるかもしれない。

(バル2世)

Saturday, March 17, 2007

サブプライムローン Subprime Loans 次级抵押贷款

№018
2007年3月

サブプライムローン
Subprime Loans

次级抵押贷款
(Cì jí dǐ yā dài kuǎn  ツー チー ティー ヤー タイ コアン)

 米国で信用力の低い人を対象とした高金利型の住宅ローン、「サブプライムローン」が世界の株式市場の懸念材料となっている。2月末の世界同時株安のきっかけは上海株式市場であるが、いまなお急落を繰り返している原因はやはりローンの破綻が相次いでいる米経済によるものだろう。「小さな問題ではない」と、グリーンスパン米連邦準備理事会(FRB)前議長はフロリダ州での講演で回りくどい表現をしている。これは自身の発言が株式市場で大きな波紋を呼んでいるからだ。
 さて、この特異なローン、かなり前からあった金融商品であるが、中国語は最近になって「次級抵押貸款(ツー チー ティー ヤー タイ コアン)」と訳されている。「抵押」は抵当に入れることをさし、主に家屋が提供される。また、別の訳では「次優恵利率貸款(ツー ユー ホイ リー リュイ タイ コアン)」と表現する場合もある。
 日本語は音訳ができるので、そのままカタカナ表示できるが、実際に中身を理解している読者は少ないだろう。新聞の補足説明では「信用度の低い借り手への融資」と付け加えており、当初の低金利でも2、3年経過すると急に金利が上がる仕組みになっているようである。これは家屋が抵当にだされていることが前提であり、不動産の値上がりで数年後の売却を計算に入れての借り入れだった人が多いという。もし、そうであれば、不動産価格の上昇が意に反して低下に転じたとき、焦げ付くことは目にも明らかである。
 世界一の経済大国、アメリカは何故このローンに脅かされるのであろうか。米経済の減速にならないと主張する者によれば、このサブプライムローンは融資全体の7%でしかないという。しかし、いまのアメリカは貿易と財政の双子の赤字だけでなく、貯蓄より借入が先行する国民性があるとつくづく考えざるをえない。

(マーティー)

Saturday, July 29, 2006

テポドン2号  Taepodong-Ⅱ  大浦洞二号

№017
2006年7月

テポドン2号
Taepodong-Ⅱ

大浦洞二号
(Dà pǔ dòng èr hào ター プー トン アル ハオ)

 北朝鮮が5日に発射した長距離弾道ミサイル問題で、「テポドン」が国際社会の物議を醸しだしている。すぐさま、国連の非難決議案が採択され、先に開催された東南アジア諸国連合の地域フォーラム(ARF)でも議長案の冒頭には「ミサイル発射に憂慮」を表明する文言が掲げられた。残念なことは、北朝鮮が態度を頑なに多国間協議へのテーブルにつかないことである。
 その「テポドン」とは、もともと北朝鮮にある小さな村の地名からつけられた米軍のコードネーム「Taepodong」であることはあまり知られていない。北朝鮮側ではこのミサイルを「白頭山(ペクトゥサン)」とよんでいる。米軍の人工衛星から確認された地名がたまたまテポドンだっただけであり、特定のミサイルを認識するためだけの命名であった。中国語では「大浦洞(タープートン)」とよばれており、漢字にあてはめると地名の由来がいっそうはっきりしてくる。「洞」(トン)というのは、韓国や北朝鮮の地名に多い「村」とか「町」と同じような意味をもっており、地名接尾辞の役割を持っている。
 もうひとつ、北朝鮮の短距離ミサイルである「ノドン」について、これも米軍がミサイルを確認した地名から来ており、中国では「盧洞(ルートン)」とよばれている。いずれも「村」とか「町」と同じような接尾辞がついており、きな臭い軍事基地のイメージがない。北朝鮮側はノドンを「木星」または「火星7号」とよんでいるようで、先の白頭山と同様に象徴的な名前をつけている。大量破壊兵器として使われるミサイルが「人の住む憩いの場」を連想させるような地名であてがわれ、国際社会で広く使われていることはいかにも皮肉な結果になっている。
(バル2 世)

Sunday, June 11, 2006

ファンドマネージャー Fund manager 基金经理人

№016
2006年6月


ファンドマネージャー

Fund manager

基金经理人
Jī jīn jīng lǐ rén チー チン チン リー レン)



 「日本のM&A三剣客」といったら、誰であろうか。4000億円のファンドを率いる村上代表が逮捕された日、中国のマスコミでは「村上世彰、堀江貴文、三木谷浩史」の三氏を取り上げて、彼らを「併購三剣客(ピン コウ サン チエン コー)」と称して報道した。「併購」はM&Aのことである。
 ここ数年、日本で仕掛けたM&Aの三大人物であるが、実はこの三人の職業は一人だけ異なる。そう、村上世彰氏が他の二氏と同じ企業経営者でなく、村上ファンドを運営するファンドマネージャーであることだ。中国証券報は村上氏の肩書きを「代表」でなく、「基金経理人」としており、この表記は実に正確であると私は感じた。
 ファンドマネージャーは運用資産の受託をもとにこれを管理・運営していく人であり、その役割は投下資金のハイリターンを実現することである。設立された当初の資金が40億円であったから100倍になっており、その手段の適正はともかく実に優秀なファンドマネージャーであったといえる。
 日経新聞の経営者緊急アンケートでは、村上ファンドによる産業界への影響として否定的な評価が67%を占めていた。投資ファンドは企業経営者にとって自らの地位を脅かす存在であるから、これは当然の調査結果であろう。ところが意外にも逮捕された後も、同氏を支持する多くの人がおり、一般投資家から見れば株主の監視による経営の緊張と規律を高めたことは否定できないでいる。
 しかし、株主価値の向上を提唱する村上氏といえどもインサイダー取引に嫌疑がかけられた以上は、マーケットに混乱をもらし、他の株主の利益を損なったことは事実である。投資ファンドへの規制を強化する動きが予想されるが、過度な規制も市場の活気を削ぐことは何としても避けたいところだ。今後、ものを申す株主が増え、経営者の意識改革が推進されるとしたら、村上ファンドの功罪は相半ばとする評価を私は下したい。
(バル2 世)

Wednesday, May 03, 2006

ライブドア  Livedoor  活力门

№15
2006年5月



ライブドア

Livedoor

活力门
(Huó lì mén フオ リー メン)



 一世を風靡したライブドア株が、ついに上場廃止となった。東証マザーズでの最後の取引値は94円。あとに残ったのは15万人(3月末)の株主と今後発行される大量の株券かもしれない。上場廃止後の東証マザーズの取引は10分の1に激減し、ライブドア株の市場からの退出は新興市場につめ跡を深く残している。
 この数年、彗星のごとく登場し、ホリエモンの愛称で親しまれてきた元ライブドア社長堀江貴文氏が先月末保釈された。証券取引法違反の容疑で逮捕されてから3ヶ月ぶりのことである。1996年に「オン・ザ・エッジ」の社名で創業し、わずか4年で東証マザーズに上場させた。株式の分割、積極的なM&Aを展開する一方で、日本最大の無料プロバイダーを運営する「ライブドア」の営業権を譲り受け、2004年2月に現社名に変更した。近鉄バッファローの買収にも名乗りをあげ、日本放送株をめぐってフジテレビとの壮絶なバトルを展開し、当時の社長ホリエモンは一躍、時の人となった。
 ライブドアの名は世界の耳目も大いに集め、中国でも話題になった。ライブドアの中国名は「活力門(フオ リー メン)」。「活力」の和訳は文字通りで、「門」は「入り口、ドア」の意味になる。しかし、「活」のニュアンスは日本と少し違うようで、「生きているもの」「Live」の意味合いが強いのだろう。よく、中国を旅行して生け簀(す)のあるレストランで魚を注文すると、「活的(フオ ト)」(生きているもの)といって新鮮な素材を薦められる。
 停滞していた日本経済が回復軌道に乗り始め、日本の株式市場はV字型回復を示した。昨年1年間に凝縮されたライブドアの派手な仕掛けは、中国からみてまさに「活力」の象徴であったし、「活力門」はこの会社の当て字として傑作であった。しかし、17%の株式を持つ筆頭株主が逮捕者の堀江貴文氏であることは、信頼回復を目指すライブドアにとって大きな負の遺産となっている。

(バル2 世)